かぜっぴき正一(2)

スパナはショウニに、おそろいのグリーンのツナギを着せると
「ほっ」と、抱きあげ、そのまま歩いて仕事場に向かいます。

「この間まで、ショウニが風邪っぴきと思っていたら、こんどは正一が風邪……
 うちには 子供がふたりいるみたいだな」
なんだか涼しい笑顔で そんなことを言っているスパナ。

でもショウニは ちょっとドキドキ。
「かぜ、ひいて、すぱなに めいわくかけてる……?」

ずいぶんと、おとなっぽいことを言うショウニに、スパナはにっこり笑いかけます。

「んーん。ちっとも迷惑じゃない。子供はかわいい、かわいい……大好きだよショウニ」
と、ショウニのほっぺたに ちゅう。

でもでも、ショウニは まだ ちょっとドキドキ。
「しょういちも、かぜひいてるけど、めいわく? かわいい? だいじょうぶ…?」

「ふふ。正一は、本当にかわいい……ウチは正一を大好きだ」

「ほっ! よかった〜」

ほっ!が、あんまりかわいらしいので、スパナはもういちど、ショウニにちゅう!です。


さてさて。
母屋とは別棟に、正一とスパナの仕事場があります。

スパナはいま、車いすの介助ロボのかいはつちゅうです。
電圧をちょっとずつ上げたり、下げたりしては、反射のテストとか、圧力のチェックなど こまかい作業をしています。

ショウニも ちいさなゴーグルと 軍手をつけてもらって、スパナの邪魔にならないように ロボの動きを見物します。
ロボットとか、ねじとか レンチとか そういうものを見たりさわったりするのがショウニは大好き。
このへんはスパナの血ですね。

いつもは こういう作業をちっとも飽きないショウニですけれども、きょうは、時計をちらちら見ています。

(30ぷん たったら、しょういちの ぐあい、うちが みにいくんだい)

スパナはもちろん、そんなショウニの気持ちは お見通し。
ちょうど30分たつと、息子に上手にお願いをします。
「ショウニ。ウチにお茶のおかわり もってきて…… ついでに正一、見てきて」

「はいっ!」

いいおへんじで、走ってゆくショウニです。



●1ぱつめ (10:30am)
客間のふすまを、ショウニはノックしました。ぽふぽふっ。
「しょういち〜〜?」

「ふがふが……」

「うち、あけても、い〜い?」

「ダメ!」

「はぅ…… しょういち……」

「ぼくは、だいじょうぶらよ〜〜」

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「すぱな。しょういち、だいじょうぶだって。でも、へんなこえだったの……」

「そうか……」

スパナは『鼻セレブ〜絹よりやさしい〜』を抱えて、正一籠城ルームへ行きました。

「ふがふが。スパヌヮ、ありがど……」



●2はつめ (11:00am)
客間のふすまを、ショウニはノックしようとして……やめました。
なんだか、中が静かです。

(しょういち……?)
眠っているのでしょうか? こっそり ふすまをあけてみると……

うすぐらい客間では、しゅんしゅん。加湿器だけが 音をたてていて、
おふとんからは すご〜 すご〜 と、鼻づまりな寝息が……

ちまちまっと、おふとんに近づくショウニ。

おふとんの端っこに、汗ばんで しなしなの、赤茶の髪の毛が はみ出ています。

「しょういち……? ねてるの〜?」
のぞきこむと、眉間にしわをよせて ベートーベンみたいな苦悩の顔で 正一は寝ています……

そのおでこに ぺたっと さわってみると…… ジワッ!と熱いです。
「ひゃあ…… あつい」

すご〜 すご〜…… 正一は 眠っています……

(しょういち、はやく げんきになってね)
ショウニは 正一のおでこに ちゅう。

すると正一が 「すぱな〜」 と 甘ったれた寝言をいいました。

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「すぱな、すぱな。しょういちはね、
 はまべにうちあげられた わかめさんみたいに しなしなで げんきがなかったの」

「ん。ショウニ、情景描写が上手だな」

「うん。このあいだ よんだ ごほんに かいてあったの」

「そんなに元気がないのか……」

ちょっと心配になったスパナは 正一籠城ルームをのぞきに行って、でも すぐ戻ってきました。

「正一、よく寝てる」そう言ってから、「ぷぷ」と笑うスパナ。
「本当に、浜辺にうちあげられたわかめさんみたいだった……ぷぷ」

「しょういちは、かわいいねえ〜」

「うん、カワイイね」



●3はつめ (11:30am)

ショウニが偵察にいくと、正一はまだ 寝ていました。

「しょういち、すご〜すご〜って ねんねしてた」
「そうか……。そろそろお昼ゴハンの支度しよう」

ロボットの電源をおとすスパナに、ショウニがへばりついて、なんだか わくわくな顔です。

スパナはニヤリ。
「ウチひとりだと 大変だから、ショウニ、ゴハン作るの手伝って?」

「はいっ!」

スパナは冷凍の枝豆を ざっと茹でると、
「ショウニ。豆の皮、むける?」

「うん! うち、えだまめさんの かわ、むくー!」

子どもがいっしょうけんめい、みどり色のまめをむきむきしている間に、
スパナは きのうの残りのシャケをほぐして、
きのうの残りのホウレン草を 細かく切って、
ショウニが剥いたえだまめと 落花生といっしょに ごはんに混ぜ混ぜして……
これを、どばっと炒めると…… 
『シャケとお豆の いろどりチャーハン』が完成です。

(ついでに きのうの残り物をきれいにできて やりきった感もMAXです)

そのあと、おなじ材料を ことこと煮込んで、かつおのだしの素を ささっと溶いて
ちょいと酒とお塩をプラスすると
『シャケと お豆の、ふっくらお粥』の できあがり。

シャケの薔薇色と、枝豆やホウレン草のみどりいろが、とても きれいです。

「いたりあの、はたの いろ〜」

「うん。イタリアの国旗の色」
スパナは ものおぼえのよい息子に ちゅう。

「ショウニ。ナルト飾って…… ウチ、正一の様子見てくるから」
「はいっ!」

ショウニは ゴハンにナルトを飾るだけでなくって、おこたに お皿やお箸をならべたり、
おこたの電源をいれて ぽっかぽかにしたり、ざぶとんを きれいに置いたりして
いっしょうけんめい、おいしいランチのお手伝い。

すっかり準備完了で、おこたの部屋で待っていると、
あっちのお部屋から、正一とスパナの声が きこえてきます……

(あ。正一、起きてたの?)
(うん。ぢっど前に起きたんどゎ…… よぐ寝た〜。今、熱計っだら 38度まで 下ぐわっていだよ!
 だいぶ汗かいたからぬぇ…)
(じゃあ、まず、着替え)

しょういちの おねつ、さっきより 2ども ひくくなった!
かしこいショウニは すばやく計算をして、にっこり。
うれしくなって、正一籠城ルームのふすまに ぴとっと貼りついて、のぞき見しちゃいました。

そしたら 籠城ルームの中では こんなことが起こっていました――

(僕、ひとりで着替えるから、スパナ、先にご飯 食べでおいでよ。さめぢゃうよ)

(バカ。正一のバカ…。ウチは正一を手伝う)
スパナは むっとした顔で、正一のパジャマを ぐーって ひっぱります。

(……ごめんね)
そんなスパナの頭のうしろを、正一は、そっと撫でます。

すると、スパナは 正一の肩に こてんと頭をくっつけて、すりすり甘えます。
(正一。早く元気になれ……)

(うん。本当に、ごめんねスパナ……)

(ちゅう)

「はうぅ……!!」
ショウニは なんだかどきどきして、そーっと ふすまから離れて、おこたに戻りました。

なんとなく、スパナはなかなか帰ってこないような気がしたので、
あつあつのチャーハンに、ラップを かけると、
ショウニは おこたにはいって、ふとんにほっぺを すりすりしながら 待ちます……

(うちも、はやく おとなに なりたいな……)


せっかく ショウニが おこたに 食事の用意をしたけれど、
正一は、(まだ熱があるし、せきもでるから)とか言って、籠城ルームで ひとりで ごはんタイム。
スパナが おぼんに ごはんや薬を盛り込んで、せっせと運んでいます。

(しょういち いないの、さみしい……)

おこたに ほっぺをすりすりして、さみしいのを我慢していると
スパナがもどってきて、なんにも言わずに ギュッ…とだっこしてくれました。

そのまま おひざのうえで ごはんを食べさせてくれます。

でも、あんまり のどをとおりません。涙のかたまりが のどにつっかえてて うまく のみこめないんです。

「ショウニ…… 元気だして。そしたら正一も、元気でるから」

「うー… しょういちがいないのに、げんきだすの、むりー」

「そうか」 低い声で、スパナが言います。 「うん。ウチも、同感。ウチも、ちょっと 元気でない」

「……!!」

ショウニは スパナのおひざのうえで、お手々をのばして スパナをギュッ!

「すぱな、すぱな! げんきだして!」

そのあとは、ショウニがレンゲをもって、スパナにちゃーはんを食べさせてあげました。
そしたら ショウニもスパナも なんだか楽しくなってきて
おたがい 食べさせっこしてるうちに にっこり笑顔に戻りました。


かぜっぴきは、まわりのみんなも なんだか きゅんと せつないです。
元気がいちばんですね。